宮本の「首」に思う

ご存じでしょうか。宮本の体型はむちゃくちゃ細い。そしてご存じでしょうか。宮本の首は、それと対照的に、むちゃくちゃ太い。
そこには、あたかもそれがアスリートの肉体であるかのように、宮本の、エレカシの20年が刻まれている。


Starting Overのジャケ写真でも首のアンバランスな太さに気づくが、もっと分かるのは歌ってるときの映像だ。真っ正面からのカメラで、少し顎をあげて歌うときの首を見る。たとえば、LifeツアーのDVDの50分付近、「暑中見舞い」で“だだだだ”叫んでいるところ。耳の下のほお骨の位置を始点として、垂直からやや広がりながら肩まで落ちる首のラインが確認できる。


これは、アメフトやラグビー選手、格闘家並みといえる。こういった選手は、何年もの間ほぼ毎日、首を振ったり四方から負荷をかけたりして、また実際に相手とぶつかることを繰り返して、衝撃に耐えるための太い首を備えている。宮本のそれは、外側からではなく内側からの負荷を、10代のころから30年近くかけ続けているための太さだ。


年間、ライブ、リハ、レコーディングをいれれば延べ500回近く歌うだろうか。それが疾走的なナンバーであろうとバラードであろうと、そのほぼすべてに地声の限界付近の高音が含まれ、いつも全力の無酸素運動が必要となる。全身を反らせ目をむきながら、声帯を操作する5、6本の筋肉を限界まで酷使している姿は、超回復による前進のための一歩だったといえる。この首は生まれつきだけのものではなく、内側から鍛え上げられ進化し続けてきた首だ。


宮本の叫びはただの絶叫ではなく、具体的に身体的に、限界を超えようとする絶叫だった。そこからいま朗々と歌われる声量と声質は、過去の幾千の絶叫と連続している。Starting Overのジャケットで宮本がすこし顎をあげて写っているのは、その首を強調しているようにも見え、その20年分を聴けと言っているようにも見える。


STARTING OVER