カニ食べて涙ながす男

妻と子と、丹後までカニを食べに来た。
カニ味噌豆冨。茹でカニカニ刺し。カニ身入り茶碗蒸し。焼きガニ。カニの天麩羅。カニと地元野菜の土鍋。


カニは美味いし、息子は天使のようで、妻は笑顔が可愛らしい。
向かいに座った母子を眺めて、幸せな円居の中で自然優しく微笑みかけながら、あまりの孤独に涙した。
頭に流れているのは「涙をながす男」だった。


日々は過ぎて行く。
40年後には僕はなくなる。
その肉体もこの思考も、跡形もなく消え失せることだろう。
長い大地の運動の中のほんの一瞬、この幸せな時間があるのだ。
そう思えばこの今は、ほとんど幻のようなものだ。


死の瞬間は、だれとも分かち合えない。
何をどんなに積み上げてきたとしても、ひとりでその最後の音を聞くしかない。
だから人間は本質的に、孤独だ。
そんな存在が何十億人と、この球体の表面に貼り付いて肩寄せ合っている。


それで、人間の生とは素晴らしいのだ。


宮本がいつも歌って聞かせてくれていることだ。